一般海域での交通方法
交通の方法
一般海域での交通の方法(海上衝突予防法)
- なぜここで一般海域となっているかというと,読んでいってもらえばわかりますが,港の中(港則法)や特定の海域(海上交通安全法)では,普通の交通方法が適用されず,その特定の場所においては,特定の決められたルールを守らなければならないことから,それらと区別して一般となっています。
- それについては,この後出てきます。
目的
- 海上衝突予防法は,海上を航行するすべての船舶の衝突を防ぐために必要な灯火,形象物,航法,信号などについて規定している。
- この法律は,国際条約に基づき規定されているものであり,日本船舶ばかりでなく外国船との間でも衝突を防ぐことができる。
用語の定義
- 船舶とは
- 水上輸送に用いられる船舟類をいう。
- 動力船
- 機関,又は機関と帆の両方を用いて推進している船舶
- 帆船
- 帆のみを用いて推進している船舶。ただし,機関と帆を備えている船舶でも,帆を使用して機関を使用していない場合は帆船とする。
- 漁ろうに従事している船舶
- 船舶の操縦性能を制限する漁具(網,なわなど)を用いて漁ろうをしている船舶
- 運転不自由船
- かじ故障,機関故障などの異常な事態が生じているため,他の船舶の進路を避けることができない船舶
- 操縦性能制限船
- しゅんせつや航路標識の敷設などの作業に従事しているため,他の船舶の進路を避けることができない船舶
- 喫水制限船
- 船舶の喫水と推進の関係で,その進路から離れることが,著しく制限されている動力船(ある水域で一時的に生じる状態)
- 航行中とは
- びょう泊(錨泊),陸岸に係留,乗揚げている以外のすべての状態をいう。
- 故障しても停船中,漂流中でも航行中になる。
- びょう泊(錨泊),陸岸に係留,乗揚げている以外のすべての状態をいう。
- 視界制限状態
- 霧,もや,雪,雨,砂あらし,その他これらと同じような事由によって,視界が制限されている状態をいう。
- 闇夜は該当しない。
- 霧,もや,雪,雨,砂あらし,その他これらと同じような事由によって,視界が制限されている状態をいう。
- 船舶の長さとは
- 船舶の全長をいう。
航法
あらゆる視界の航法
- 見張りがもっとも大切
周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて,十分判断できるように,目も耳もすべての方法(レーダーなど)も利用して,航行中,びょう泊中にかかわらず適切な見張りをしなければならない。
- 安全な速力で
船舶は,他の船舶との衝突を避けるため,有効・適切な動作をとること又はそのときの状況に適した距離で停止することができるように,常時安全な速力で航行しなければならない。- 安全な速力決定の要素
- 視界の状況
- 自船の操縦性能
- 船舶交通の混みぐあい
- 安全な速力決定の要素
- コンパス方位による衝突のおそれの判断
海上衝突予防法では,近づいてくる他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかについては,他の船舶のコンパス方位の変化によっても判断することができる。
- 衝突のおそれが判断できないときは,衝突のおそれがあると判断しなければならない。
- コンパス方位が変わらない場合
- 衝突のおそれがあると判断する。
- コンパス方位が大きく変わっている場合
- 衝突のおそれはないと判断できる。
- 他船が大型船,他船が引き船(曳航作業中),近距離のときは,衝突のおそれがあり得ることも考慮する。
- コンパス方位が変わらない場合
- 衝突を避けるための動作の要件
- 基本的な動作
- 充分に余裕のある時期に行うこと
- ためらわずに行うこと
- 針路,速力の変更など大幅な動作をすること
- 他船との間に安全な距離を保って通過できるように行うこと。
- 基本的な動作
- 広い水域での特例
- 針路のみの変更で最も有効な動作となる場合
- 針路の変更により新たに他の船舶に著しく接近しないこと。
- 適切な時期,大幅に進路の変更を行うこと。
- レーダーで他の船舶の動きを把握している場合とか,機関のみを用いて航行している場合などの要件は含まれない。
- 針路のみの変更で最も有効な動作となる場合
- 狭い水道等の航法
- 狭い水道等においては,安全な範囲でできる限り,右側の端よりを通過しなければならない。
- やむを得ない場合を除いて,狭い水道でびょう泊してはならない。
- 長さ20m未満の動力船は,狭い水道等の内側でなければ安全に航行することができない他の動力船(大型船)の通航を妨げてはならない。
- 航行中の動力船(漁ろう中の船舶を除く)は,帆船の進路を避けなければならない。
- 航行中の船舶は,漁ろう中の船舶の進路を避けなければならない。
- 狭い水道等の内側でなければ安全に航行できない大型船などの運航を妨げる場合は,その狭い水道を横切ってはならない。
お互いに視野の内にある場合の航法
- 視野の内にあるとは,互いに肉眼で見ることができる状態をいう(双眼鏡は含まれるが,レーダーは含まれない。)。
- 追越し船の航法
- 追い越しの定義
- 前の船の正横後(まよこうしろ)22度30分よりも後方の位置にあるとき。
- 夜間は前の船の船尾灯が見える位置にあるとき
- 航法
- 追い越し船(避航船)は,確実に追い越し,十分に遠ざかるまで他船の進路を避けなければならない。
- 追い越される船舶(保持船)は針路と速力を保たなければならない。
- 船種が違っても,追い越し船が避航すべきであり。追い越される船は常に保持船(針路を保持する)となる。
- 追い越しの定義
- 行会い船の航法
- 2隻の動力船が真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合
- 互いに他の動力船の左舷(進んでいる方向の左側のこと)側を通過することができるように,航路を右に転じて汽笛で短音1回の信号(操船信号)をしなければならない。
- 2隻が動力船と動力船でない場合
- 各種船舶間の航法の優先順位が適用され,行会い船の航法は適用されない。
- 2隻の動力船が真向かい又はほとんど真向かいに行き会う場合
- 横切り船の航法
- 避航船と保持船
- 避航船
2隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは,他の動力船を右舷側(進んでいる方向の右側のこと)に見る動力船は,他の動力船の進路を避けなければならない。この船舶を避航船という。 - 保持船
他の動力船を左舷側に見る動力船であり,針路と速力を保つ。
- 避航船
- 避航船と保持船
- 保持船と避航船の航法
- 避航船の航法
- 他船の針路を避ける。(停止,後進,変針する)
- やむを得ない場合以外は,他船の船首方向を横切ってはならない。
- 避航動作は早期に大幅にとる。(はっきりわかるように)
- 保持船の航法
- 針路と速力を維持する。
- 避航船が適切な動作を取っていないときは,急いで短音5回以上の汽笛信号を行う。(疑問信号)
- 避航船が適切な動作を行っていないときが判明したときは,ただちに独自に衝突を避けるための動作をとることができるが,やむを得ない場合以外は,左に針路を変更してはならない。
- 避航船の航法
- 各種船舶間の航法
お互いの船舶が針路を横切って,衝突のおそれがある場合であっても,お互いの船種が異なる場合には,横切り船の航法の適用はなく,操縦の難易に応じて避航すべき船舶が定められている(運転しやすい船が避けるのが基本)。- 1番 運転不自由船,操縦性能制限船
- 2番 漁ろう船
- 3番 帆船
- 4番 一般の動力船
- 動力船と帆船では,帆船が保持船となり,漁ろう船と帆船では,漁ろう船が保持船となる。
視界制限状態の航法
- 動力船は,機関をいつでも使えるようにしておかなければならない。
- 見張りを厳重にし,法定灯火を点灯して視界制限状態における音響信号(霧中信号)を行う(操船信号ではない)。
- 自船の正横より前方に他船の音響信号(霧中信号)を聞いた場合
- かじが効く最小限度まで速力を落とす。
- 必要に応じて停止する。
灯火及び形象物
- ここでは,教本や問題集などの図や絵も参考にしてください。
- 灯火や形象物を見て,航行している船舶の種類や船舶の状態を知ることができます。
- 国土交通省海難審判庁のサイトに「灯火」・「形象物」について掲載されていますので参考にしてください。
灯火
- 灯火の種類
- マスト灯・・・白・・・正船首方向から225度の範囲(左右それぞれ112度30分)を照らすもの。
- 右げん灯・・・緑・・・正船首から右112度30分を照らすもの。
- 左げん灯・・・赤・・・正船首から左112度30分を照らすもの。
- 船尾灯・・・白・・・正船尾から135度の範囲(左右それぞれ67度30分)を照らすもの。
- 両色灯・・・右げん灯,左げん灯をひとつにまとめた灯火(20m未満の動力船)
- 三色等・・・右げん灯,左げん灯,船尾灯をひとつにまとめた灯火(20m未満の帆船)
- 引き船灯・・・黄色・・・船尾灯と同じ範囲であるが,色が黄色(引く船が灯火する。)
- 全周灯・・・360度,どこからでも見えるもの(びょう泊灯など)
- 閃光灯・・・一定の間隔で毎分120回以上の閃光を発する全周灯
- 灯火の表示の時期
- 原則日没から日の出までの間表示
- 視界制限状態の場合は,昼間でも表示しなければならない。
形象物
- 昼間,船舶が自船の種類,状態(何をしているか)などを知らせるために,周囲の船舶から見やすいところに掲げなければならない物で,法律(海上衝突予防法で色はすべて黒)で定められている。
- 法定形象物の種類
- 球形
- 円すい形
- 円筒形
- ひし形
- つづみ(鼓)形
灯火及び形象物の表示
- 航行中の一般の動力船の灯火(基本灯火)
- 全長50m以上
- 左げん灯,右げん灯,前部マスト灯,後部マスト灯,船尾灯。
- 全長50m未満(後ろのマスト灯はなくてもよい)
- 左げん灯,右げん灯,前部マスト灯,船尾灯
- 全長20m未満の特例
- げん灯1対の代わりに両色灯1個でもよい。
- 全長12m未満の特例
- マスト灯と船尾灯の代わりに白色全周灯1個でもよい。
- 全長50m以上
- 航行中の帆船の灯火
- 全長20m未満の特例
- げん灯1対(又は両色灯1個)及び船尾灯の代わりに三色灯1個でもよい。
- 全長7m未満の特例
- 三色灯1個に変えて,白色の携帯電灯又は点火した白灯をいつでも使用することができるように用意しておくことでもよい。
- 全長20m未満の特例
- 特別な場合の識別灯と形象物(図は一部省略)
- 引き船の灯火(夜間)と形象物(昼間)
- 引き船の形象物(昼間)は,引く船の船尾から引かれる船(物)の後端までの長さが200mを超える場合に限って掲げます。
- 運転不自由船の灯火と形象物
- 操縦性能制限船の灯火と形象物
- 喫水制限船の灯火と対象物
- トロールによる漁ろう中の灯火と形象物
- トロール以外の漁ろう中の灯火と形象物
- びょう(錨)泊船の灯火と形象物
- 乗り上げ船の灯火と形象物
- 引き船の灯火(夜間)と形象物(昼間)
参 考 | |
---|---|
船首方向から見える灯火 | マスト灯,左げん灯,右げん灯 |
船首方向から見えない灯火 | 船尾灯 |
船尾方向から見える灯火 | 船尾灯 |
船尾方向から見えない灯火 | マスト灯,左げん灯,右げん |
全長50m未満の動力船 | 後ろのマスト灯はなくてもよい |
音響信号
汽笛信号
- 長音と短音
- 長音とは・・・4秒以上6秒以下
- 短音とは・・・約1秒
操船信号(針路信号)
- 視界制限状態(見えないとき)では,行ってはならない。ただし,認められている場所などではよい。
- 針路を右に転じているとき
- 短音1回
- 針路を左に転じているとき
- 短音2回
- 機関を後進しているとき
- 短音3回
狭い水道における追越し信号・同意信号(警告信号)
- 追い越し信号を行わなければならない場合
- 狭い水道で追越する場合,前の船に協力動作を取ってもらわなければ追越ができないときは,どちら側を追い越すか信号をしなければならない。
- また,追い越される船が追い越しに同意した場合,同意信号をしなければならない。
- 追い越し信号と同意信号の方法
- 右側追い越し
- 長音2回,短音1回
- 左側追い越し
- 長音2回,短音2回
- 同意信号
- 長音1回,短音1回,長音1回,短音1回
- 右側追い越し
疑問信号(警告信号)
- 信号を行わなければならない場合
- 他の船舶の意図や動作が理解できないとき。
- 他の船舶が衝突を避けるための動作をとっているかどうか疑問なとき(保持船が避航船に対して行う。)。
- 信号方法
- 汽笛で急速に短音5回以上鳴らす。
狭い水道のわん曲部等の信号(警告信号)
- 狭い水道のわん曲部へ接近する場合は,相手が見えないので十分注意して航行すると同時に長音1回の信号をする。聞いた側の船舶も長音1回の返信をする。
視界制限状態における信号(霧中信号)
- 視界制限状態にある水域またはその付近において航行し,びょう泊し,または乗り揚げている船舶は,昼夜にかかわらず,法に定める「視界制限状態における音響信号」を行わなければならない。
船 の 種 類 | 信 号 方 法 |
---|---|
1 対水速力を有する動力船 | 2分を超えない間隔で長音1回を繰り返す。 |
2 対水速力のない動力船 | 2分を超えない間隔で長音2回(長音と長音の間隔は2秒 |
3 帆船,漁ろう船,運転不自由船,引き船・押し船,操縦性能制限船,喫水制限船 | 2分を超えない間隔で長音1回,短音2回 |
4 長さ12m未満の船 | 2分を超えない間隔で有効な音響信号(バケツ,ドラム缶など) |
5 長さ100m未満のびょう泊船 | 1分を超えない間隔で約5秒間,急速に号鐘(ごうしょう)を鳴らす |
6 ひかれ船(乗組員がいる場合) | 2分を超えない間隔で長音1回,短音3回 |
- ※ 対水速力がある船舶とは,機関とかじが使える船舶をいい,対水速力がない船舶とは,自分では舵が利かない船舶をいう。
遭難信号
- 遭難して救助を求める場合に行う重要な信号
- 約1分間の間隔で行う1回の発砲その他の爆発による信号
- 霧中信号器による連続音響の信号
- 短時間の間隔で発射され,赤色の星火を発するロケット又はりゅう弾による信号
- 無線による「メーデー」という語の信号
- 国際旗りゅう信号によるNC旗の遭難信号
- 船舶上の発炎(タールおけ,油たる等の燃焼)による信号
- オレンジ色の煙を発する発煙信号(自己発煙信号)
- 左右に伸ばした腕を繰り返しゆっくり上下させる信号
- 救助を求める以外に,これらの信号とまぎらわしい信号を行ってはならない(夜の船舶上からの打ち上げ花火など)
- 救助を求める以外に,これらの信号とまぎらわしい信号を行ってはならない(夜の船舶上からの打ち上げ花火など)