操 縦
操縦
かじの作用
- 有効だ(舵)角(33°~35°)
- 進行中にかじを一方にとると,傾斜しながら速力を落としつつ旋回する。
- この作用は,かじをとった角度に比例して大きくなるが,ある程度を越えて大角度を取ってもかじの効きはよくならない
- 排水型小型船舶の有効だ角は,約35°とされている。
- 傾斜
- かじをとると船は傾斜しながらかじを取ったほうに回る。
- 滑走型,半滑走型の船は,かじを取った方(内側)に傾斜する。
- 排水型の船は,かじを取った方とは反対側(外側)に傾斜する。
- かじをとると船は傾斜しながらかじを取ったほうに回る。
- キック作用(かじとプロペラが後ろ(船尾)にあることにより,発生する現象)
- かじを取ると,初期のときは,船首よりも船尾の動きが大きく,針路よりも外側(かじを取った方向とは反対)に船尾が振り出される尻振り現象をいう。
- かじを大きく取るほど大きくなる。
- キック作用の利用
- 落水者や障害物・浮遊物がプロペラに巻き込まれないように,落水者や障害物側にかじを大きく取ることによって,船尾が外側に振れるため避けることができる。
- 船を岸壁から早く離そうとして大きくかじを取りすぎると船尾の振れにより,岸壁に接触してかじやプロペラを損傷する場合もある。
- 落水者や障害物・浮遊物がプロペラに巻き込まれないように,落水者や障害物側にかじを大きく取ることによって,船尾が外側に振れるため避けることができる。
- 操船に関する一般的な注意
- 操船中は,常に周囲をよく見張り,エンジン音や計器の示度に注意する。
- だ力や低速で航行しているときや流れにのって航行するとかじの効きが悪い。
- 追い波や追い風を受けながら航行するとかじの効きが悪い。
- 後進のときは,かじの効きが悪い。
- 小型船の排水型は,水深の浅い場所ではかじの効きが悪くなる。
- 航行中,急旋回や急発進をしないこと。
- 2隻の小型船が同じような速力で併走する場合,両船の吸引作用により接触事故を起こすことがあるので間隔は十分にとる。
- 小型船が前の船を追従するときは,引き波の影響を受けないような位置を選ぶ。
- 変針するときは,小刻みに操舵し,一気に大角度の転だは行わない。
- 後進はブレーキ代わりに利用できるが,急激な後進はプロペラを跳ね上げることがある。
スクリュープロペラ
- 船が前進しているとき,後ろから見て
- 時計回りを右回り
- 反時計回りを左回り
- 一軸
- プロペラが1個
- 二軸
- プロペラが2個
- 一軸右回りのプロペラ船の基本作用
- かじ中央で機関を後進にかけると船尾は左転する。
- 横方向からの風を受けて停止している場合に,かじ中央で機関後進にかけると船尾を風上にきりあげる。
- 前進で180°旋回させる場合,使用水面が最も小さくて済む(小回りできる)のは,左転だ(左かじ)いっぱいにとる。
- 左げん着岸しやすい。
- 着岸点で後進に入れると船尾が左に振れるから。
- ピッチ
- プロペラが1回転して船が進む距離(羽のひねり)をいう。
- 高速低過重船は,直径が小さくピッチの強いもの。
- 低速高過重船は,直径が大きくピッチの弱いもの。
- プロペラが1回転して船が進む距離(羽のひねり)をいう。
着岸・係船・びょう泊
- 着岸方法
- 着岸場所に30°~40°の小角度で進入する。
- 着岸点から船の長さの4~6倍ぐらいの距離で,機関を中立にし,惰力で近づく。
- 風・潮流が強いときは,それに逆らって進入したほうが,かじがよく効くので着けやすい。
- 係船
- 岸壁などに係留する場合は,潮の干満を考えてロープの長さを加減すること。
- 荒天が予想される場合は,あらかじめ係船索の数を増やしたり,風上側にいかりを入れたりして備える。
- 風や潮の動きが強いときは風上側のロープからとる方が係船しやすい。
- 解らん(ロープをほどくこと)するときは,逆に風下側のロープからほどくようにする。
- ビットにロープをとるときは,滑りを防ぐために数回巻き付けて止める。
- びょう泊(錨泊)
- 沖合いにいかりを入れて停泊するとき。
- 単びょう泊(一個のいかりで留めること)するときは,いかりを中心に船が振れ回っても十分な広さの海面を選ぶこと。
- いかりかきのよい底質のところを選ぶこと。どろ,砂がいい。
- いかりロープ(アンカーロープ)は,海面が静かなときは水深の3倍くらいで,風波が強いときは,水深の5倍くらいの長さをとるとよい。
- モーターボートなどでは,いかりロープは船首のクリートに結ぶのが一般的である。
- 沖合いにいかりを入れて停泊するとき。
- 走びょう
- 船がいかりを引きずったまま流されることで,いかりがひけるともいう。
- 底質が悪くいかりかきが悪い。小石や海草など。
- いかりロープが短すぎる。
- いかりが軽すぎる。
- 荒天による激しい風波のときなど。
- 船がいかりを引きずったまま流されることで,いかりがひけるともいう。
- 守びょう
- 走びょうを知ったときの処置のことをいう。
- 他の場所にいかりを入れ直す(転びょうする。)
- アンカーロープを伸ばす。
- 走びょうを知ったときの処置のことをいう。
- 双びょう泊(ふたついかり)
- 両げんのいかりをV字型になるように投入して停泊すること。
- ふれ回りが少なく,走びょうしにくい。
- 作業が面倒で,ロープなどが絡まることがある。
- 両げんのいかりをV字型になるように投入して停泊すること。
入港時の注意
- 入港
- 潮流や波の激しい水路を通り入港する場合は,沖合いからその状態を観察し安全性を確かめる。
- 港泊図を利用し,あらかじめ水路の状況を調べておく。
- 入港するときは目標として見通し線を利用する。
- 浅瀬のあるところは水深を確かめながら低速で航走する。
- 港の入り口付近に出航船がないかどうか確かめる。
- 波を真後ろから受けると,船尾から波の打ち込みに遭いやすいので若干角度を付けた針路で進入する。
峡水道・峡視界航行・荒天航行
- 峡水道航行
- 針路上に顕著な2つの物標を選んで見通し線を作っておくとよい。
- 逆潮で航行する方がかじがよく効く。
- 流れとなるべく平行に航行した方がよい。
- 河川などのわん曲部分では外側を航行する方がよい(内側は堆積作用により浅瀬になっていることが多い。)。
- 水深や流速は場所によって変化していることに注意する。
- 峡視界航行
- 見張りを厳重にする。
- かじが効く程度の速度に落とす。
- 船位が不明になったら安全な場所に投錨して晴れるのを待つ。
- いつでも機関は操作できるようにしておく。
- 陸岸近くでは,測深をしながら航行する。
- 風上の方へ向かうと視界の回復が早い。
- 他船の音響信号を聞き漏らさないようにする。
- 信号音の強弱のみによって他船との距離を推測してはならない。
- 荒天航行
- 船内での準備
- 全員の救命胴衣の着用を確認する。
- 移動しやすい荷物を低い場所に固定する。
- 雨水や海水が入らないように窓やハッチを閉める。
- スカッパを開き,排水ポンプやバケツ等を用意する。
- 操船上の注意
- 風波をやや斜め向かいから受けるように操船する(横波を受けるのを避ける。)。
- 大きな波を受けて航行するときは,波の頂上の手前で減速する。
- 追い波を受けて航行するときは,波の上り斜面に位置を保つように速力を調整する。
- 航行不能のときは,機関を中立にして,シーアンカーかそれに代わるバケツ,ロープの束,その他の抵抗物を船首から流し,船首を風浪にたてる。
- 衝撃が激しいときは,かじが効く程度に減速する。
- 船の動揺周期と波の周期とを一致させないこと。
- 船内での準備
事故の処置
- 衝突の場合の処置
- 直ちに機関停止
- 人命救助を最優先(船体救助よりも優先する。)
- あわてて後進し両船を引き離さないこと。破損箇所から浸水のおそれがある。
- 乗り上げ(座しょう)の場合の処置
- 直ちに機関停止
- かじ,プロペラ,船体の破損状況,底質,潮時などを調べる。
- あわてて後進しないこと(砂,どろを吸い込んでオーバーヒートや損傷を大きくすることがある。)。
- 引きおろしが不可能なときは,船を固定して救助を待つ。
- 干潮時に乗り上げたときは,船体に異常がなければ潮が満ちるのを待ってもよい。
- あらかじめ,アンカーを船尾方向のなるべく遠い深い方に打ち込んでおく。
- 火災の予防と処置
- 予防
- 燃えやすいものは機関室に置かないこと。
- エンジンの整備不良,漏電箇所等はないかチェックすること。
- 燃料室や機関室の換気を十分に行うこと。
- 特に機関室は,ガスを排除するために機関始動前に必ず換気を行うこと。
- 燃料補給中にバッテリー結線の取り外しは行わないこと。
- 処置
- 火元を風下にして直ちに機関停止
- 燃料を切り,バケツ,消火器などで初期消火に努める。
- 消火不能のときは近くの浅瀬に乗り揚げるなどして退船する。
- 予防
- 消火器の種類
- 粉末消火器
- 一般火災(A火災),油火災(B火災)むき
- 液体消火器
- 一般火災むき
- 炭酸ガス消火器
- 電気火災(C火災)むき。密閉されたところでの使用はガス中毒の危険があるので注意する。
- あわ消火器
- 一般火災むき。感電するおそれがあるので電気火災にはむかない。
- すべての火災に使用できる消火器
- ABC消火器
- 消火器には有効期間が決められている。
- 粉末5年,液体消火器1年など
- 期間がきた消火器は中の溶剤を入れ替えなければならない。
- 小型船舶には,通常,粉末又は液体消火器が備えられている。
- 消火器は,風上から使用する。
- 粉末消火器
- かじや機関が故障した場合の処置
- 投びょうしてなるべく漂流しないようにする。
- 自力で応急処置をとる。
- かじの故障の場合は,仮かじとして船尾両げんからロープの束を流し,長さを調節しながら微速で航行する方法もある。
- 状況によって,他船や陸上に救助を求める。
- 浸水・沈没の場合の処置
- ビルジが異常に増加した場合は,機関の冷却水管や船底の亀裂・破損を点検する。
- 船内機船では,スタッフィングボックスからの漏水などを点検する。
- 浸水箇所を風下側にして,ウエスをつめたり板切れを当てたりして応急処置をする。
- ビルジポンプ,あかくみなどすべてを利用して排水に努める。
- 破口が喫水線付近の場合は,乗組員や積荷を移動して,船を傾斜させ,破口を喫水線より上に持っていくこともできる。
- 破口が大きい場合は,防水マット等を外側から当てて,排水作業に当たる。
- 機関室への浸水は,機関の使用を不可能にするおそれがあるので,全力を挙げて防水作業に当たる。
- 浸水が多く沈没のおそれがある場合は,波浪が小さく,勾配の緩やかな砂地を選んで乗り揚げる。
- 浮流物に関する事故
- 航行中は,絶えず機関の音の変化,船体のショック,速力の変化,冷却水温度計の異常,かじの重さなどに注意する。
- 浮流物は海面上にその一部しか現れていないことがあるので注意する。
- 潮目付近には,浮流物が集まりやすい。
- 浮流物は,オーバーヒート,推進機の破損などの機関故障を引き起こすことが多いので注意する。
- プロペラの損傷は,船体の振動を引き起こすから注意する。
- 航行中,漁網をプロペラに巻きつけたときは,エンジンを止め,推進器を引き上げてはずす。(船外機船,船内外機船など)
人命救助
- 救命浮環
- 船名と船籍港名を記載したものを取りやすいところに設置しておく。
- 夜間は,自己点火灯,昼間は,自己発煙信号を連結して使用する。
- 救助の方法
- 落水したときは,機関を中立にするとともに落水者の側にかじを切って,船尾を落水者から離す(キック作用の利用)。
- 救命浮環を投下し,風下に回って船首方向から風を受けるように接近する。
- 風下からいくのは,向かい風を受けてかじがよく効き操船しやすいため。
- 救助するときは必ず機関は停止する(危険防止)。
- 落水者を救助した場合の応急措置
- 呼吸していないときは,気道を確保,人工呼吸
- 心臓停止と判断した場合は,心臓マッサージも行う。
- 衣服が濡れているときは脱がせてから毛布などで保温に努める。
えい航(船や物を引いて航行すること)
- えい索の長さ
- 引き船と引かれる船の船体の長さを加えた長さの3倍くらいのロープ。
- 風や波がの強いときは少し長めの方がよい。
- 引き船と引かれる船の船体の長さを加えた長さの3倍くらいのロープ。
- えい航時の注意
- ゆっくり発進して,少しずつ速力を上げる。
- 視界の悪いときは,減速しロープを短くする。
- 突発的な事故に備えて,ロープはいつでも切り離せるようにしておく。
- 引かれる船はできるだけ軽くする。
- えい航中,ロープが張りすぎる場合は減速し,ロープをのばす。
- 引かれる船は,船首のクリートなどにロープをとる。
- 引く船は,片側だけに力がかからないよう船尾の両サイドのクリートからV字になるようにロープをかける。
- 引かれている船の船首の振れが多いときはえい索を長くする。
- えい索を離すときは,徐々に停止し離したロープをプロペラに巻き込まないように注意する。
- 水上スキーやウエイクボードを曳く場合の注意
- 事故防止のため,他の船舶や遊泳者がいる混みあった水域では行わないようにする。
- 湖など一定の水域では水上スキー等に関する条例等がある場合もあるので確認しておくこと。
- 引き船には操縦者以外に見張りを行う者を同乗させ,操縦者に転倒や合図の伝達を行わせる。
- 引いているときは,操縦性能が悪くなる。
- 高速で旋回するほどスキーヤーが外側に振られる力(遠心力)が大きくなる。
- スキーヤーなどを船に引き上げるときは,プロペラへの巻き込みをふせぐため,エンジンを停止する。
船体安定とトリム
船体の上下の安定
- トップヘビーの状態
- 客,荷物を船の上のほうばかりに積み上げると重心が高くなりすぎる。この状態をトップヘビーという。
- 復原力が小さくなり不安定になる。
- ゆれ方がゆっくりになり大きくなる(横揺れ周期が長い。)。
- 転だしたとき傾きも大きくなり,元に戻りにくくなる。
- 風や波を受けたときの船体の傾きが普通より大きい。
- 甲板上の水はけが悪いと重心は高くなる。
- 客,荷物を船の上のほうばかりに積み上げると重心が高くなりすぎる。この状態をトップヘビーという。
- ボトムヘビーの状態
- 客,荷物を低いほうばかりに積み込むと重心が低くなりすぎる。この状態をボトムヘビーという。
- 復原力が大きくなり安定性はよくなる。
- ゆれ方が早く激しくなる。
- 転だしたとき傾きは比較的小さく,元に戻りやすい(横揺れ周期が短い)。
- 風や波を受けたときの船体の傾きが普通より小さい。
- 客,荷物を低いほうばかりに積み込むと重心が低くなりすぎる。この状態をボトムヘビーという。
トリム(船体の前後の傾斜)
- 船首と船尾の喫水の差をトリムという。
- 荷物,客を乗せるときは,前後のバランスを考えなければならない。
- 船首トリム(おもてあし)
- 船首喫水が船尾喫水より大きい状態
- 船尾トリム(ともあし)
- 船尾喫水が船首喫水より大きい状態
- イーブンキール
- 喫水が船首,船尾とも平均している。
- 喫水が船首,船尾とも平均している。